ビスポークにおいて「完璧」とは、フィットや仕上げ以上の意味を持ちます。形状やデザイン、素材が履き手を自然に映し出し、靴がその人の一部のように感じられることです。ドイツ・フライブルクのPatrick Freiは、この理想を執拗に追求するビスポーク靴職人です。一足一足が「顧客の宝物であり、信頼できる相棒」となるよう作られます。

The Makers GuildではビスポークをCraft（技）、Comfort（履き心地）、Care（手入れ）、Cost（費用）、Continuity（継続性）の5つのレンズで見ています。Freiの仕事は、手撚りの糸、緻密な40分計測、フィッティングのためのレザー製トライアルシュー、そして9〜12か月の製作という点で際立ちます。これらを通じて、彼の靴が世界中の顧客を惹きつける理由が明確になります。

あなたの一部になる靴——Patrick Freiの哲学

「毎回、その人のための完璧な靴を作ることを目指しています」とFreiは語ります。ここでいう完璧とは、靴の形と素材が履き手を表現している状態です。そのためにまず目的と、依頼者にとっての「快適」の意味を理解し、それに合わせて設計します。

服装、体格、所作までを考慮し、
持ち主に属する一足へと仕上げます。多くの顧客が自分の靴を「真の相棒」と捉えるようになり、技術を超えた関係性が生まれます。

キャップトゥ・オックスフォードのような定番でも、彼は毎回ゼロから設計し直します。キャップを長くすれば現代的で外向的に、短くすればよりエレガントに見えます。わずかな差が表情を大きく変えます。

靴に詳しい依頼者もいれば、提案を好む方もいます。Freiは選ぶべき点と職人に委ねるべき点の線引きを一緒に考えます。最終的な一足は依頼者の意志と作り手の美意識をともに映し、「美と完全性に導かれた力強い作品」を目指します。

2018年 世界大会での優勝

ロンドンのSuper Trunk Showで開催された第1回World Championship in Shoemaking（2018年）で、Freiは厳密な仕様に基づく黒のボックスカーフ製キャップトゥ・オックスフォードで初代王者となりました。応募作は匿名化され、国際的な審査団により評価。彼の一足は作りの深さと細部で突出していた。

名だたる職人が競う中、約30のファイナリストの頂点に立ちました。超極細のアウトソールステッチ、ヒール周りの装飾釘打ち、真鍮のトゥ／ヒールプレート——一見はクラシック、近づけば工夫が随所に光ります。

靴の製作時間は約160時間、さらにバイオリン製作家と共同開発した彫刻的な3ピースのシューツリーに約40時間。受賞作はその後、ニューヨーク、シカゴ、シンガポール、ソウル、北京、香港、ストックホルム、東京、オスロ、ジュネーブを巡回しました。2019年にはFrei自身が審査員を務め、Freiの仕様を機に金属装飾のヒールを備えた出品作が目に見えて増えました。

大道芸人から靴職人へ——稀有な道のり

1981年生まれのFreiの道のりは特異です。高校卒業後は大道芸人として世界を旅し、その後ボリビアで伝統的なレザートランク職人の徒弟となりました——この経験が革仕事への情熱を呼び起こしたとFreiは言います。

帰国後はドイツで師匠のもと2005年から修業し、2008年頃にフライブルクでアトリエを開設。中央駅近くのStühlinger Gewerbehofにある工房には、100年前の道具と生きた技が共存しています。

1900〜1930年の黄金期の技術を再現

ドイツでの修業後、彼を魅了したのは1900〜1930年のショーウィンドウでした。芸術と手仕事が不可分だった最盛期です。彼は欧州各地を巡り、多くの職人から学び、古い調合や作法を掘り起こしました。

靴作りはこれまで数世紀をかけて成熟し、1900〜1920年頃に頂点を迎えたものの、大量生産で質が削がれたとFreiは考えます。狙いは当時の標準を取り戻しつつ、微細なラインや非対称のラストなど独自の発明を重ね、クラシックを凡庸にしないことです。

糸そのものまで手仕事で

Freiは亜麻（flax）や麻（hemp）を撚り、松脂と蜜蝋でワックスをかけ、猪毛を針代わりに使ってpechfaden（ピッチワックス糸）と呼ばれる伝統的な手縫い糸を自作します。さらにソールとヒールを熱い蝋で封じます——これらの作業は機械では再現できない領域です。

シグネチャーの一つが真鍮製のトゥプレート。2018年Freiが世界大会に優勝して以降、他の職人にも影響を与えた意匠です。

足の真実を見る40分の計測

ビスポークはフレイブルグのアトリエへ3回の来訪で進みます。初回は目的、好み、痛みの有無を確認し、計測へ。足型をインクで取り、座位と立位の寸法を記録し、メジャーを締めてから緩めることで違和感が消える許容域までを見極めます。

この手法で形状や荷重変化、快適域を捉え、設計に反映します。他所と比べて綿密だと驚かれることが多い工程です。

ラスト設計における3つの非対称

Freiはあらゆる形状に対応できる特別なラストを一本ずつ削り出します。設計を特徴づける非対称は3つ。（1）歩行に同調する微妙なねじれ、（2）足底平面図でわずかにバナナ状——内側をまっすぐにしてつま先の自由を確保、（3）正面から見たとき外側のつま先がわずかに落ち、蹴り出しを助ける。解剖学とエレガンスが動きの中で交わります。

革のトライアルシューズで仕上げるフィット

2回目の来訪ではレザー製のprova（試作靴・トライアルシュー）を履きます。Freiはこの工程を、ラストを正確に追い込むうえで不可欠だと考えています。トライアルシューズに切り込みを行い、つま先の自由度、土踏まずの接地、荷重の挙動を目視で確認してから調整します。

この段階を省く工房もありますが、Freiにとって初回の一足を成功させるための譲れない工程です。

なぜ毎回ゼロからデザインするのか（ビスポークの核心）

ラストも依頼者も毎回異なるため、設計も毎回見直す必要があります——キャップの長さ、カーブ、ステッチ位置まで。靴はテンプレートではなく、その人を表現するためのものです。

決める範囲と委ねる範囲の配分は依頼者ごとに異なります。職人の判断への信頼も、プロセスと結果の一部です。

9〜12か月という時間の意味

リードタイム——フィッティングまでしばしば6〜8か月、納品まで約9〜12か月——は、手作業に妥協しないことの表れです。手作りの糸、削り出すラスト、トライアルシューでの調整。チャンピオン作だけでも約160時間、ツリーに約40時間を要しました。

この時間は過剰ではありません。作り手と履き手、そして物の結びつきを生み、一人の顧客と向き合った一足を創る時間です。

ウェイトリストと遠方の依頼

アトリエは現在予約制で新規受注は一時停止中ですが、ウェイトリストの登録が可能です。初回の計測と最初のトライアルはフライブルクで行います。海外でのトランクショーもありますが、初回の一足には2〜3回の対面を推奨します。

一度あなた専用のラストが完成すれば、2足目以降は€500の割引が適用され、納期も短縮されます。

教育への情熱

Freiは7年間にわたり個別およびグループの講座を開き、段階的なラストメイキングの教授法を整えてきました。問い合わせはメールまたはInstagramで受け付けています。アトリエは日本や欧州の作り手が技術と視点を交わす場にもなっています。

注文方法——フライブルクへの旅

ご注文はフライブルクのアトリエにて予約制で承ります。新規受注は一時停止中のため、ウェイトリストにご登録ください。

参考価格：ラスト製作＋トライアル＋完成靴で€6,200〜。同一ラストでの2足目以降は€500割引。

通貨換算は適用していません。

連絡先：Ferdinand-Weiss-Str. 9–11, D-79106 Freiburg, Germany. Tel +49 761 2177030. Email patrick@freischuhe.de。Website https://www.freischuhe.de；Instagram @patrick.frei.bespoke。

フランスとスイスに接する黒い森の縁にある大学都市フライブルクは、美しい街です。アトリエを訪れる体験も物語の一部となり、その記憶を靴が伴走してくれることでしょう。

まとめ——顧客の一部となる宝物へ

手撚りの糸、40分計測、ラストの3つの非対称、トライアルシューズ、そして数か月の専心。これらが、履き手の一部のように感じられる一足を形づくります。

黄金期に根ざしつつ独自性を失わないFreiのアプローチは、2018年の世界タイトルと国際的に多くの顧客をもたらしました。ウェイトリストがあっても、その旅路は価値があります。

「ビスポーク フィッティング」や「手縫い ウェルテッド」に価値を置く方、既製靴では満たせないフォルムや履き心地を求める方にとって、Patrick Frei ビスポーク靴職人の仕事は有力な選択肢です。フライブルクへの訪問という体験も含め、靴は記憶を運ぶ器となり、履くほどに自分だけの表情（パティーナ）が宿っていきます。

結論として——Freiの靴は、造形の美と機能の調和、そして長期的な伴走力を兼ね備えています。ラストメイキングから始まる対話は、単なる「所有」を越えて、あなたの歩みとともに価値を増す「関係」を生みます。待つに値する一足を、時間とともに育てていきましょう。