MOGADA:世界王者が紡ぐ、伝統と現代美のビスポーク靴。その哲学に迫る
公開/ 更新/著者: Masayuki Kaneko
この記事には、The Makers Guildが独自に実施したインタビューやリサーチに基づいた内容が含まれています。
真に価値あるビスポークシューズとは何か。流行に左右されず、所有者の人生に寄り添う一足とは、どのような哲学と技術から生まれるのか。この問いに一つの答えを示すのが、ドイツ・ミュンヘンを拠点とするビスポークシューメーカー「MOGADA(モガダ)」です。創業者であるLouis Lampertsdörfer(ルイス・ランパーツドーファー)氏は、2025年の靴作り世界選手権で優勝し、その名を世界に轟かせました。本記事では、The Makers Guild独自の5Cの観点—Craft(作り)、Comfort(履き心地)、Care(手入れ)、Cost(価格)、Continuity(継続性)—から、MOGADAの本質を徹底的に解剖し、その魅力の根源に迫ります。
【補足】本記事では「MOGADA ビスポーク靴」や「ハンドソーンウェルテッド」などの用語も明確化し、比較検討の参考となる実務的情報を示します。
MOGADAが体現する「履く芸術」。伝統技術と現代美の完璧な調和

MOGADAの靴を単なる「高級靴」という言葉で片付けることは、その本質を見誤らせます。ブランドの核心は、創業者ルイス氏がインタビューで語る「伝統的な手仕事で靴を作りながら、同時に現代的な美意識を念頭に置く」という信念に集約されています。これは、英国の伝統的なビスポーク技術を忠実に守りながらも、デザインは現代のライフスタイルに調和させるという二律背反への挑戦です。結果として生まれるのは、クラシックでありながら古臭くなく、モダンでありながら軽薄でない、絶妙なバランスの上に成り立つ「履く芸術品」です。5Cの観点で見れば、そのCraft(作り)は世界最高レベルの客観的な評価を得ており、それが究極のComfort(履き心地)と長期的なContinuity(継続性)を保証します。この稀有な存在価値こそ、MOGADAが世界中の靴愛好家から熱烈な支持を集める理由に他なりません。
2025年World Championships of Shoemakingの快挙





MOGADAの品質を最も客観的に証明しているのが、2025年の「靴作り世界選手権」での優勝です。審査は技術の難易度、仕上げの精度、そしてデザインの美しさという3つの厳格な基準で行われます。ルイス氏が出品したダークブラウンのダブルモンクストラップは、1インチに30針という驚異的なステッチ、継ぎ目のないシームレスヒール、そして馬蹄形ヒールの独創的な意匠など、あらゆる点で審査員を唸らせました。これは、彼のCraft(作り)が主観的な評価だけでなく、世界共通の基準においても頂点に達していることの動かぬ証拠です。この優勝は、MOGADAの靴が単なる高価な嗜好品ではなく、世界最高峰の技術によって裏付けられた資産価値を持つプロダクトであることを示しています。優勝後、BBCニュースで特集されるなど、その名は専門家だけでなく、広く一般にも知られることとなりました。
ビスポークのDNA:Gaziano & Girlingで培われた英国伝統の靴作り

MOGADAの卓越した品質は、創業者ルイス氏の経歴に深く根差しています。彼は学生時代からハンドメイド靴に情熱を注ぎ、大学卒業後、英国の最高峰シューメーカー、Gaziano & Girlingの門を叩きます。そこで彼は、ビスポーク部門の職人ダニエル・ウェガン氏に師事し、ウェストエンドの伝統的な靴作り、ハンドソーンウェルテッド製法の真髄を学びました。インタビューで「英国で訓練を受けた際にこの伝統的な靴作りに惚れ込みました」と語るように、この経験が彼の靴作りの哲学の根幹を形成しました。この対立軸比較の視点から見ると、イタリア靴の軽快さやフランス靴の色気とは一線を画す、英国靴特有の堅牢さと構築的な美しさがMOGADAの持ち味です。この揺るぎない技術的基盤(Craft)があるからこそ、現代的なデザインを加えても靴としての品格が揺らぐことがなく、長年の使用に耐えうるContinuity(継続性)が生まれるのです。
手仕事への拘り。Bespoke, MTO, RTWを貫くハンドソーンウェルテッド製法

MOGADAの真価は、ビスポークだけでなく、既製靴(Ready-to-Wear)にまで妥協なく手仕事の哲学が貫かれている点にあります。市場の多くの高級靴がグッドイヤーウェルテッド製法(機械縫い)を採用する中、MOGADAはRTWラインでさえ、より手間のかかるハンドソーンウェルテッド製法(手縫い)を基本としています。これはCost(価格)の観点からは非効率ですが、機械では不可能なレベルのフィット感と足馴染み、すなわち究極のComfort(履き心地)を実現するための必然的な選択です。イタリアの提携工房で手作業の吊り込みとウェルト縫いを行い、最終仕上げはミュンヘンの自社工房でルイス氏自らが行う。この徹底した品質管理こそが、MOGADAのRTWが単なる既製品ではないことの証明です。例えば、2019年の世界選手権で6位に入賞したフルブローグのデザインは、後にRTWコレクションの「Corinth」モデルとして製品化されており、その出自からも品質の高さが伺えます。
あなただけの一足を仕立てる。BespokeとMTOの具体的なプロセス

MOGADAで究極の一足を求めるなら、Bespoke(ビスポーク)かMade-to-Order(MTO)がその答えとなります。現場実務の視点から見ると、そのプロセスは顧客との対話そのものです。ビスポークでは、ルイス氏自らが顧客の足を採寸し、要望を詳細にヒアリング。その情報をもとに木型をゼロから削り出し、最低2回の仮靴フィッティングを経て完璧なフィットを追求します。製作には約200時間を要し、まさに顧客と職人の共同作業と言えるでしょう。一方、MTOは既存のモデルをベースに、革素材やデザイン、ソールなどをカスタマイズするプログラムです。ここでも、個人の足型に合わせた木型を新規作成するオプション(Made to Measure)が用意されており、ビスポークに迫るComfort(履き心地)を実現可能です。例えば、Instagramではカナダの顧客のために作られたMTMローファーや、パリの顧客向けのMTMシューズが紹介されており、世界中の顧客がこのサービスを活用していることがわかります。こうしたプロセスは、単に靴を作るのではなく、顧客一人ひとりのための「パーソナルな体験」を創出する実践と言えます。
既成概念を超えるRTW。最適な一足を見つけるためのフィッティング

「遠隔地に住んでいるからビスポークやMTOは難しい」という常識は、MOGADAには通用しません。彼らが提供するユニークな「フィッティング・サービス」は、地理的な制約を取り払う画期的な実践です。このサービスは、顧客が希望するサイズの試着靴を自宅に取り寄せ、ビデオ通話を通じてルイス氏本人とフィッティングを行うというもの。これにより、最適なサイズはもちろん、個々の足の癖に合わせて木型をどのように調整すべきかまで、専門的なアドバイスを受けられます。これは、ブランドのContinuity(継続供給性)を担保し、世界中の顧客に門戸を開くための重要な戦略です。失敗回避の観点からも、高価な靴をオンラインで購入する際のリスクを劇的に低減させます。インタビューで「このやり方は非常にうまく機能しており、世界中のお客様に喜ばれています」と語られる通り、これはテクノロジーを活用して伝統的なサービスを進化させた好例と言えるでしょう。このサービスにより、日本からでも安心してオーダーすることが可能です。
実物に触れ、職人と対話する機会

MOGADAの靴を深く理解し、オーダーするための最良の機会が、ヨーロッパ各地で定期的に開催されるトランクショー(受注会)です。これは、創業者ルイス氏が自らパリ、ブリュッセル、アムステルダム、ジュネーブなどを巡回し、顧客と直接対話する貴重な場。現場実務の視点で見ると、トランクショーは単なる販売会ではありません。顧客はサンプルを手に取り、革の質感や作りの精緻さを五感で確かめ、自身の足でフィッティングを試すことができます。そして何より、作り手であるルイス氏本人に、理想の靴のイメージや足の悩みを直接相談できるのです。これは、最高のComfort(履き心地)を追求する上で不可欠なプロセスです。2025年秋には、ミュンヘン、ジュネーブ、パリに加え、ロンドンでも初のトランクショーが開催される予定です。例えば、パリでは高級紳士服店「Ardentes Clipei」が会場となるなど、現地の信頼できるパートナーと連携している点も、安心して参加できる要素。完全予約制のため、一人ひとりの顧客に時間をかけて向き合う姿勢が貫かれています。参加を希望する場合は、公式サイトやInstagramで最新情報を確認し、メール(mail@mogada.de)で予約することをお勧めします。
価格以上の価値はあるか?MOGADAの価格設定と投資対効果を吟味する

MOGADAの靴を選ぶ上で、Cost(価格)は避けて通れない要素です。価格は以下の通りです。
- Ready-to-Wear (RTW): 1,300ユーロから
- Made-to-Order (MTO): 1,500ユーロから
- Made-to-Measure (MTM): MTO価格 + 300ユーロ
- Bespoke: 5,000ユーロから
これらの価格は、一般的な高級靴と比較しても高額です。しかし、その価値を判断するには、単なる価格ではなく、投資対効果(ROI)の視点が必要です。MOGADAの靴は、ハンドソーンウェルテッド製法により、ソールの交換が容易で、適切なCare(手入れ)を行えば何十年と履き続けることが可能です。これは、数年で履き潰してしまう安価な靴を何度も買い替えることと比較すれば、長期的にはむしろ経済的であるという考え方もできます。また、世界選手権優勝という客観的な評価は、その資産価値を裏付けています。MOGADAの靴を手に入れることは、短期の消費から距離を置き、自身の足に最適化された機能と、ケアとリソールの積み重ねによって深まる風合いに資本を配分する選択だ。換言すれば、リセールや承継の容易さではなく、長期の使用によって積み上がる使用価値を基準に評価すべき一足である。
【補足】価格は執筆時点の目安です。最新の提供条件・在庫・納期は公式情報をご確認ください。
「待つ」ということ。ビスポークの納期と、手に入れるまでの心構え

MOGADAの靴、特にビスポークをオーダーする場合、相応の「待つ時間」が必要です。これは、ファストファッションとは対極にある、スローなものづくりへの理解を求めるプロセスです。ビスポークの納期は、最初の採寸から完成まで、通常6ヶ月から1年を要します。これには、木型の製作、仮靴の製作とフィッティング、そして本番の靴の製作という、多くの手仕事の工程が含まれます。世界選手権優勝による需要の急増により、今後はさらに納期が長くなる可能性も十分に考えられます。この「待つ」という行為は、単なる時間消費ではありません。職人との対話を通じて理想の一足を形にしていく、期待感を育む時間であり、手に入れる靴への愛着を深めるための重要なプロセスです。MOGADAの靴を選ぶことは、完成された製品を買うだけでなく、その靴が生まれるまでの物語(Continuity)を共有することでもあるのです。
MOGADAの哲学と未来。受け継がれる伝統と、グローバルな展開への展望

MOGADAの物語は、まだ始まったばかりです。創業者ルイス・ランパーツドーファー氏は、英国で学んだ伝統技術を忠実に守りながらも、リモートフィッティングサービスのような現代的なアプローチを積極的に取り入れ、ビスポークの世界に新しい風を吹き込んでいます。彼の哲学は、単に古いものを守るのではなく、その価値を現代において再定義し、未来へと繋いでいくことにあります。最高水準のCraft(作り)と、それに裏打ちされたComfort(履き心地)とContinuity(継続性)。そして、その価値に見合ったCost(価格)。世界選手権優勝という栄誉を手にし、彼の名は世界中の靴愛好家に知れ渡りました。今後、ヨーロッパのトランクショーに加え、アメリカやアジアへの展開も視野に入れているという彼の挑戦は、伝統工芸の枠を超え、グローバルなビスポークブランドとしての新たな地平を切り拓く可能性を秘めています。MOGADAの一足は、単なる靴ではなく、職人の情熱と哲学、そして靴作りの未来そのものを履く体験と言えるでしょう。
MOGADAという体験を手に入れるために

MOGADAの靴を手に入れることは、単にプロダクトを購入する以上の体験です。それは、世界最高峰の職人技に触れ、自身の価値観を反映した一足を育て、そしてそれを次世代へと受け継いでいくという、壮大な物語への参加を意味します。この記事を通じてMOGADAに興味を持たれた方は、ぜひ最初の一歩を踏み出してみてください。まずは公式サイトやInstagramを訪れ、その世界観に触れることから始めてはいかがでしょうか。そして、もし機会があれば、トランクショーに足を運ぶか、リモートフィッティングサービスを利用して、ルイス氏と直接対話してみることをお勧めします。そこから、あなただけのビスポークの物語が始まります。
【補足】トランクショーや最新の受付状況は、公式サイトおよびInstagramの最新投稿をご確認ください。
工房情報
MOGADA
住所:Schmaedelstr. 15, Munich, Bavaria, 81245, ドイツ
メール:mail@mogada.de
ウェブサイト:https://www.mogada.de
Instagram:@mogadamunich
Facebook:Mogada | Munich
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